「預かった予算を、正しく使えているか」広告主・代理店・ベンダーが三者で向き合う、広告品質の現在地

はじめに:各社の役割
光田さま:
サイバーエージェントのインターネット広告事業本部で、営業組織のマネージャーをしています。クライアントの広告予算をお預かりして、一件でも多くの事業成果につながる効果を出すために、広告出稿だけでなく業務効率化やデータ活用も含めたデジタルマーケティング全般のサポートを行っています。
小泉さま:
オンワードグループの公式通販「オンワード・クローゼット」のマーケティング活動全般、また、グループ内の他事業のマーケティングやデータ分析の支援を担当しています。
代理店として「品質」にどう向き合ってきたか
手動対応の積み重ねと、リアルタイム性の壁
吉田:
サイバーエージェント様は今回、ブランドセーフティ対策や不正ドメイン・MFAサイトへの出稿排除など、品質面での取り組みを一緒に進めていただきました。普段は代理店として、クリックや配信面の品質管理は、これまでどのように対応されてきましたか?
光田さま:
2000年頃にJIAAやJAAがインターネット広告の綱領を定めて以来、私たちもその会員として継続的に対応してきました。問題のあるメディアをリスト化して手動で除外するといった運用を、自社システムを使って一斉に反映できるよう、可能な限りオペレーションを組んで対応し続けてきました。
網羅性と頻度を担保できるよう注力していますが、リストが更新されるタイミングでの実施となるため、リアルタイム運用という点でいうと限界はあります。
特にオンワード・クローゼット様のように商品ごとに細分化された複雑なアカウント構造の場合、配信先の品質や不正トラフィックなどノイズによって本来良いものが悪く見えてしまう可能性もある。
適正な運用について、定量的には測るのは難しい部分でした。
吉田:
協会に加盟されている代理店様として、協会が定める基準の品質を守っているものの、リアルタイム運用の点では手動対応には限界がありますよね。
光田さま:
もちろん基準を順守し対応していますが、リアルタイムに反映し続けるというのは、人力では難しいところがあります。
広告主の課題感——「何かしらあるはずだ」が可視化されるまで。
歴史あるブランドが気づいた「守る仕組み」の欠如
吉田:
オンワード様は、アドフラウドやブランドセーフティ対策に最初に関心を持ったのはどんなきっかけでしたか?
小泉さま:
2019年頃からアドフラウドやブランドセーフティという言葉がメディアに出てくるようになり、「そういう分野があるんだ」という認識は持ち始めていました。
オンワード・クローゼットは売上も投資金額も伸びており、EC領域への期待は年々大きくなっています。オンワードグループ自体も、来年で創業100周年を迎えます。
そんな中、長年積み上げてきたブランド資産を守る仕組みが、デジタル広告の領域にはあまり存在していなかった。そこに課題感を覚えたのが最初のきっかけです。
また、私たちのチームはデータ分析の文化が強く、何事も定量化して評価するループを回しています。それなのに、不正の状況は可視化できていなかった。十分な対策が講じられていないのではないかという問題意識が、徐々に醸成されていきました。
「何かしらある」が、ついに数字になった
吉田:
Spider AF導入後、不正クリックやブランドセーフティの効果に関して新たな気づきはありましたか?
小泉さま:
最大の価値は、アドフラウドの種類と実態が定量的に可視化されたことです。「何かしらあるだろう」という感覚はずっと持っていた。でも広告レポートを眺めて期待値を満たしていれば、それ以上は気に留めない。そういう状態でした。
今回の導入で「これだけの量が不正かもしれない」と数字で見えたことは、大きな気づきでした。
また、不正を排除することで本当の人間に広告が届くようになる。コンバージョン率が上がるはずという仮説を持って臨んだところ、CPAの改善というかたちでそれが確認できたことも収穫でした。
光田さま:
アドフラウドがどのくらいの物量なのかという手触り感がなかったので、それが可視化されてデイリーで業界水準も把握しつつ比較できるようになったのは大きな変化でした。話では業界の数字を聞いていましたが、いざ自分が担当するクライアントで実際に目の当たりにすると、「これはやるべきだ」という実感が非常に強くなりました。
吉田:
オンワード様については、ブランドセーフティのドメイン除外機能だけでも約3万ドメイン、無効クリックは数十万クリック分を除外し、有効オーディエンスにアロケーションしています。
不正率の水準については、業界や競合環境によって変わります。
EC業界はおおよそ平均不正クリック率5%に近しい業界ですが、人材や金融業界などは平均的に高い傾向がありますね。
特に競合が多く、CPCが高い業種ほど不正クリックが起きやすいんです。
競合からの意図的なものや、情報収集目的のボットが走りやすい傾向があります。

「配信が落ちる」「工数が増える」——よくある懸念の実態
不正を排除しても、配信ボリュームは落ちない
吉田:
代理店様からよく聞く懸念として、「不正を排除すると配信ボリュームが落ちるのでは」というものがあります。実際の運用ではどうでしたか?
光田さま:
配信ボリュームが落ちるということではなく、適切なところにきちんと出稿して、その分を本来あるべき投資や攻めの投資に回せる、という運用になっています。
なお、配信ボリュームということ自体をどう捉えるか、クライアントとの広告戦略の描き方によって解釈も変わる話だと考えています。
手離れのよさが、導入のハードルを下げる
吉田:
工数の面ではどうでしたか?
光田さま:
私たちとして自社でも品質を担保していく責任があるので、Spider AFのツールを使いつつも、もともとの自社の取り組みを減らすことはしていません。ただ、ツール導入によってプラスアルファで工数が増えたかというと、自動化されているツールなので工数が増えずに精度が上がり、質が担保できている、という感覚です。
小泉さま:
導入効果を丁寧に検証したく、初期導入の際にABテストを実施したため、セットアップやテストの評価に一定の工数はかかりました。
ただ、ここは定量化を重視する我々のこだわりなので、すべての事業者様がそこまでやり込む必要はないと思います。
ABテストで一定の効果を可視化した後の運用では、全て自動で除外されていくのでレポートのみ確認しています。
現場が忙しくなったということは特にありません。
数字と、数字に出ない価値
媒体からの返金は広告費へ。「コスト」か「投資」か
吉田:
Spider AFで不正判定されたログデータをエビデンスとして、Yahoo!から毎月一定の返金があると思いますが、 その返金額はどのように活用されていますか?
小泉さま:
そのまま広告費に充て再投資ができています。
吉田:
この取り組みは経営側から見て「コスト」と「投資」、どちらの感覚に近いですか?
小泉さま:
好ましくないサイトには広告を露出しない、というブランドセーフティの観点では、ブランド資産を守るための「投資」です。
広告パフォーマンスの改善という定量的な面では、対策ツールにいくら払って最終的な評価がどれだけ改善したかというコスト的な見方になります。ケースバイケースですね。
社員のスクリーンショットが教えてくれたこと
吉田:
対策前に実際にブランド毀損を感じた出来事はありましたか?
小泉さま:
おそらく社員だったと思いますが、「こんなサイトに広告が出ていますよ」とスクリーンショットで問い合わせが来たことがありました。声を上げてくれた人がいたから課題に気づけたわけで、気づかれていないだけで同様のことが数多く起きていたんだと思います。
「当たり前」をつくるために——担当者が動けない理由と、その超え方
まず「見える化」が第一歩
吉田:
「アドフラウド対策は、まだ『重要だと分かっていても後回し』になりがちな領域だと感じています。業界を牽引される企業様として、これが当たり前に実施される状態になるためには、何が必要だと思われますか?
小泉さま:
まず可視化することだと思います。私たちも無料の診断をしなければその深刻さを把握できないままでした。課題感はあっても優先度は上がらなかったと思います。何かのきっかけで定量的に数字を見せることで、「こんなところに出ているのか」「こんなにあるのか」という危機感が具体的に生まれる。それが第一歩です。
社内を動かす「定性 × 定量」のセット
吉田:
担当者が導入したくても社内を通せないというケースも多いのですが、オンワード様の社内ではどのように意思決定されましたか?
小泉さま:
私たちはスムーズに意思決定できましたが、正攻法を考えると、定量・定性のファクトをセットで用意することが必要だと思います。定量データだけでは、デジタルに詳しくない上席には伝わりにくい。一方で、例えば「タレントを起用した広告が変なサイトに出ていた」という具体的な事例が一つあるだけで、リスクのリアリティが一気に高まります。
どれだけの不正があるかという定量面と、失われる可能性がある信頼、という定性面の両面から、ビジネスに与えるマイナスのインパクトを提示できれば、意思決定もしやすいと思います。
また、「アドフラウドで信頼が失われたことが発端で、株価や売上に影響があった」といった、ニュースをいくつか見かけたことがありますが、こうした事例を引用することも、自分ゴト化されやすいので、有効なのかもしれません。
代理店として、広告費を預かる責任
「損するのが嫌い」——代理店が主体的に動く理由
吉田:
光田さまは、広告主様に対してアドフラウド対策の重要性を非常に丁寧に発信されていた印象があります。
代理店様としては多くの施策を並行して推進される中で、クライアント様への啓発も含めて積極的に取り組まれていた背景には、どのようなお考えがあったのでしょうか?
光田さま:
個人的に、損するのがとても嫌いなんです。意図しないところにお金が使われているのは、自分としても嫌だし、クライアントに対しても誠意ある対応とは言い難いです。
広告はときに嫌われる存在でもありますが、一方で人に選択肢を与えるものだと思っています。広告で情報を届けることで、その人の人生が何かのきっかけで変わるかもしれない。知らずに買わないのと、知って買わないのは大きく違う。
一人でも多くの人に適切な情報を届け、マーケットを成熟させていくためにも、無駄を排除できるならやらない理由はないという気持ちがあります。
以前、事業主側にいた経験から、先人が築き上げたブランドは少しの傷でもイメージや売り上げに大きく影響することを肌で感じています。そういう経験も含めて、ブランドを守るという意識が自分の中にあるのかもしれません。
吉田:
「媒体が対策しているから大丈夫」で済ませる代理店もある中で、そこをしっかりリードしていただいていた。それが印象的でした。
光田さま:
予算を預かっている以上、クライアントに満足度高く取り組んでもらうために、手触り感を持ってもらうことはすごく大事だと思っています。
最後に一言。代理店と広告主は「運命共同体」
光田さま:
代理店と広告主は、売り上げが上がれば出稿も増え、効果も出せる、ある意味で運命共同体です。デジタルマーケットが成長し続けている以上、健全な広告運用によってマーケットの成長の仕方も変わってくると思います。
日本はアドフラウドの影響が世界でもワースト2位の国です。この状況を健全化できれば、マーケットの成長角度は確実に上がる。先進的に取り組まれているケースに伴走しながら、その事例を展開していくことで、健全なデジタルマーケットをつくっていきたいと思っています。
また、株式会社として投資家からお金をいただいてビジネスが成り立っている以上、アドフ
ラウド対策を通じた透明性の高い広告運用は、株主を含むすべてのステークホルダーに対して誠実な取り組みでもあると思っています。
三者の信頼関係が、業界の「当たり前」をつくる
小泉さま:
ブランド・代理店・メディアの三者がそれぞれ信頼関係を構築しながら、クリーンな環境の中で不正やノイズを排除してそれぞれのビジネスが向上していく。そういう好循環をつくることに関われているのは素敵なことだと思います。
対策後は足元でも、広告パフォーマンスは改善し、ブランドイメージが守られ、お金も返ってくる。現場レベルでも良いことが起きているということを、まず知ってほしいです。
事業主側も代理店からの提案を待っているだけではなく、「まずは可視化をしてみたい」と要望していくのも必要な動きだと思います。

吉田:
本日はありがとうございました。
「代理店と広告主は運命共同体」代理店様として伴走されている光田さまのこの言葉が、今日の対談を象徴していると感じました。
広告の品質を守ることは、誰か一者が解決できる問題ではありません。代理店がクライアントの予算に責任を持ち、広告主がブランドを守る仕組みを整え、ベンダーが可視化と自動化を担う。3者がそれぞれの責任を自覚して連携することで、はじめて見えてくるものがあり、変えられるものがあります。
「やったほうがいいとはわかっているけど……」と感じている代理店の方に、今日のお話が「まず自分のクライアントで実態把握に動いてみよう」という一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。ありがとうございました!
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