サプライチェーン攻撃対策の完全ガイド|何から始める?担当者の不安を解消する具体的ステップ

「サプライチェーン攻撃の対策、どこから手をつければ良いか分からない…」
「最近、同業他社のインシデントを聞いて自社が不安になった…」
企業のセキュリティ担当者として、このような悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。
サプライチェーン攻撃は、もはや他人事ではありません。
セキュリティ対策が盤石な大企業であっても、取引先や委託先の脆弱性を突かれれば、深刻な被害に繋がる可能性があるからです。
この記事では、サプライチェーン攻撃の対策担当者が抱える不安を解消するため、以下の3つのポイントを分かりやすく解説します。
信頼できる公的機関の情報や最新の事例を基に、具体的な対策ステップを紐解いていきましょう。
なぜ今、サプライチェーン攻撃が「自分ごと」なのか?

サプライチェーン攻撃の脅威は、日に日に高まっています。
この攻撃は、特定の大企業や政府機関だけを狙ったものではありません。
むしろ、サプライチェーンを構成するすべて企業が、攻撃の標的、あるいは踏み台になる可能性を秘めているのです。
自社のセキュリティ対策が万全でも、取引先が攻撃されれば、その影響は自社にも及びます。
だからこそ、この問題を「自分ごと」として捉え、対策を講じることが急務となっています。
サプライチェーン攻撃とは?基本と深刻なリスクを再確認
サプライチェーン攻撃とは、攻撃対象の企業へ直接侵入するのではなく、関連する取引先や委託先など、セキュリティ対策が手薄になりがちな組織を踏み台にして、最終的な標的を攻撃する手法です。
例えば、ソフトウェアの開発会社に侵入してプログラムに不正なコードを仕込み、そのソフトウェアを利用する多くの企業にマルウェアを拡散させるといった手口が挙げられます。
この攻撃の恐ろしい点は、信頼している取引先や利用しているサービスが攻撃の入り口になるため、検知が非常に難しいことです。
一度侵入を許してしまうと、機密情報の窃取や事業停止など、計り知れない損害に繋がる可能性があります。
中小企業こそが標的になる理由とトヨタの事例に学ぶ教訓
「うちは大企業ではないから大丈夫」と考えているとしたら、それは大きな間違いです。
近年のサプライチェーン攻撃では、セキュリティ対策が比較的緩やかで、大手企業への足がかりにしやすい中小企業が、最初の標的として狙われるケースが増えています。
実際に、トヨタ自動車株式会社の国内全工場が稼働停止に追い込まれた事例では、直接の原因は主要取引先である小島プレス工業株式会社へのサイバー攻撃でした。
この事例は、サプライチェーン上の1社のインシデントが、日本を代表するグローバル企業の生産活動全体を麻痺させるほどのインパクトを持つことを、私たちに示しています。
自社の規模に関わらず、サプライチェーンの一員である以上、誰もが攻撃の当事者になりうるのです。
攻撃者はどこから侵入する?知っておくべき4つの攻撃手口
サプライチェーン攻撃の手口を理解することは、自社の弱点を発見する第一歩です。
攻撃者は、主に以下の4つの経路から侵入を試みます。
それぞれの特徴を把握し、どこにリスクが潜んでいるのかを具体的にイメージしましょう。
手口1:取引先を踏み台にする「ビジネスサプライチェーン攻撃」
これは、標的企業の関連会社や取引先を侵害し、そこから正規の業務上の繋がりを悪用して標的の内部ネットワークへ侵入する、最も古典的かつ一般的な手口です。
特に、海外拠点やセキュリティ体制が十分に整っていない中小の委託先が狙われやすい傾向にあります。
攻撃者は、業務上のメールやファイル共有を装ってマルウェアを送り込むため、検知が非常に困難です。
手口2・3:利用するソフトウェアやサービスを悪用する攻撃
日々業務で利用しているソフトウェアやクラウドサービスが、攻撃の侵入口になるケースも後を絶ちません。
「ソフトウェアサプライチェーン攻撃」では、正規のアップデートファイルにバックドアが仕込まれ、気づかないうちに自社のシステムが乗っ取られることがあります。
2020年に発覚したSolarWinds社の事例では、同社のネットワーク監視製品を介して、米政府機関を含む18,000以上の組織が影響を受けました。
また、「サービスサプライチェーン攻撃」では、ITシステムの管理を委託しているサービス事業者(MSP)などが攻撃され、その管理権限を悪用して顧客企業にランサムウェアを拡散させる、といった被害が発生しています。
信頼しているベンダーやサービスプロバイダーが、意図せず脅威の運び屋となってしまうリスクがあるのです。
対策の羅針盤!IPAも示す「サプライチェーンリスク管理」の全体像

ここまで様々な攻撃手口を見てきましたが、これらに対処するためには、個別の技術対策を場当たり的に行うだけでは不十分です。
重要なのは、サプライチェーン全体を一つのエコシステムとして捉え、継続的にリスクを評価・管理していく「サプライチェーンリスク管理」という考え方です。
これは、IPA(情報処理推進機構)が発行する「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」でも重要項目として挙げられています。
このガイドラインは、経営者がリーダーシップを発揮し、自社だけでなくサプライチェーン全体のセキュリティレベルを向上させるための指針を示しています。
具体的な対策を考える前に、まずはこのような公的機関のガイドラインを「対策の羅針盤」として、取り組むべきことの全体像を把握しましょう。
【明日から実践】サプライチェーン攻撃対策のロードマップ4STEP

「何から手をつければ良いか分からない」という担当者のために、ここからは具体的な対策を4つのステップに分けたロードマップを提示します。
このステップに沿って進めることで、自社の現状を把握し、計画的に対策を強化していくことができます。
まずはSTEP1から、着実に実行していきましょう。
STEP1:自社と取引先のリスクを「見える化」する
あらゆる対策の第一歩は、現状を正しく把握することから始まります。
自社がどのような企業と取引し、どのような情報やシステムを共有しているのか。
そして、それぞれの取引にどのようなリスクが潜んでいるのかを「見える化」することが不可欠です。
このステップを疎かにすると、対策に漏れが生じたり、優先順位を間違えたりする原因となります。
サプライヤーの棚卸しとリスク評価の方法
まずは、自社のサプライヤー(業務委託先、仕入先、サービス提供元など)をすべてリストアップし、棚卸しを行いましょう。
その上で、各サプライヤーに対してリスク評価を実施します。
以下の表は、リスク評価を行う際のチェック項目の一例です。
これらの項目を参考に、自社独自の評価シートを作成し、リスクの高いサプライヤーを特定しましょう。
STEP2:契約とコミュニケーションで取引先との守りを固める
自社だけでセキュリティ対策を完璧にしても、取引先のセキュリティが甘ければ、そこが弱点となってしまいます。
自社の城壁を高くするだけでなく、サプライチェーンという共同体全体で防御レベルを引き上げることが重要です。
そのためには、取引先との契約内容を見直し、継続的なコミュニケーションを通じて、セキュリティ対策への協力を仰ぐ必要があります。
契約書に盛り込むべきセキュリティ条項と定期監査のポイント
取引先と新たに契約を結ぶ際や、既存の契約を見直す際には、セキュリティに関する要件を明確に盛り込むことが不可欠です。
これにより、万が一インシデントが発生した際の責任範囲を明確にし、平時からの対策を義務付けることができます。
また、契約が形骸化しないよう、定期的な監査やヒアリングで遵守状況を確認することも重要です。
STEP3:技術的対策で多層防御の壁を築く
サプライチェーン攻撃は手口が巧妙化しており、侵入を100%防ぐことは困難です。
そこで重要になるのが、万が一侵入されたとしても、被害を最小限に食い止めるための「多層防御」という考え方です。
これは、一つの防御策が破られても、次の防御策が機能するように、複数のセキュリティ対策を層のように重ねて実装するアプローチです。
基本の防御(EDR・脆弱性管理)から一歩進んだ対策へ
従来のウイルス対策ソフト(EPP)は、既知のマルウェアを検知することには長けていますが、未知の攻撃やファイルレス攻撃には対応しきれない場合があります。
そこで、PCやサーバーなどのエンドポイントでの不審な挙動を監視し、侵入後の攻撃を検知・対応するEDR(Endpoint Detection and Response)の導入が不可欠です。
また、OSやソフトウェアに存在する脆弱性は、攻撃者にとって格好の侵入口となります。
脆弱性情報を常に収集し、リスクを評価して迅速にセキュリティパッチを適用する「脆弱性管理」のプロセスを確立することが、基本的ながら非常に重要な対策となります。
【独自】Webサイトの脆弱性を狙う攻撃に「Spider AF SiteScan」で対抗

サプライチェーン攻撃の中でも、特に見落とされがちなのが、自社のWebサイトに設置された外部のJavaScript(タグ)を悪用する攻撃です。
マーケティング目的で設置した広告タグや解析ツールが改ざんされ、サイト訪問者のクレジットカード情報が盗まれる「Magecart(ウェブスキミング)」攻撃などがその代表例です。
このようなクライアントサイドの脅威に対しては、サイトに読み込まれるすべてのスクリプトを可視化し、管理するソリューションが有効です。
「Spider AF SiteScan」は、Webサイトのセキュリティとパフォーマンスを向上させるための包括的な機能を提供します。
自社サイトの安全性を確保することは、顧客からの信頼を守り、ビジネスを成長させる上で不可欠です。
STEP4:全社で取り組む組織体制とセキュリティ教育
セキュリティ対策は、情報システム部門だけの課題ではありません。
経営層がリーダーシップを取り、全社的な取り組みとして推進することが成功の鍵です。
インシデント発生時に迅速かつ的確に対応するための専門チーム(CSIRTなど)を設置するとともに、全従業員のセキュリティ意識を底上げするための継続的な教育が不可欠となります。
具体的には、不審なメールを見分けるための「標的型メール訓練」を定期的に実施したり、パスワードの適切な管理方法や情報資産の取り扱いルールについて周知徹底したりすることが挙げられます。
従業員一人ひとりが「セキュリティの最後の砦」であるという意識を持つことが、組織全体の防御力を高めます。
【2025年最新】国内外の被害事例から学ぶべき教訓

過去の事例から学ぶことは、同じ過ちを繰り返さないための最良の方法です。
特に、近年のサプライチェーン攻撃は手口が巧妙化しており、その事例を分析することで、我々が次に備えるべきことが見えてきます。
ここでは、最新の事例から得られる教訓を解説します。
XZ Utils事件から読み解くオープンソースの新たな脅威
2024年3月に発覚した「XZ Utils」へのバックドア混入事件は、世界中のセキュリティ関係者に衝撃を与えました。
この事件が特異なのは、信頼できる開発者を装った攻撃者が、数年という長い時間をかけてオープンソースプロジェクトの信頼を勝ち取り、最終的に悪意のあるコードを混入させた点にあります。
この事例から我々が学ぶべき教訓は、広く使われているオープンソースソフトウェア(OSS)であっても、無条件に安全とは限らないということです。
今後は、利用しているソフトウェアにどのようなOSSコンポーネントが含まれているかを把握するための「SBOM(Software Bill of Materials:ソフトウェア部品表)」の作成・管理や、開発者の信頼性を評価する仕組みが、より一層重要になるでしょう。
もし攻撃されたら?被害を最小限に抑えるインシデント対応計画

「攻撃は100%防げない」という前提に立ち、万が一攻撃を受けた場合に、いかに被害を最小限に抑え、迅速に事業を復旧させるかを定めた「インシデント対応計画」を策定しておくことが極めて重要です。
慌てず的確な対応ができるよう、事前に役割分担や連絡体制、具体的な手順を明確にしておきましょう。
この計画は、一度作って終わりではなく、新たな脅威や組織の変更に合わせて、定期的に見直しと訓練を繰り返すことが肝心です。
【これで説得できる】経営層を動かすためのセキュリティ投資の伝え方

セキュリティ対策を進める上で、多くの担当者が直面する壁が「経営層の理解」と「予算の確保」です。
技術的な脅威を説明しても、なかなか重要性が伝わらないことも少なくありません。
経営層を説得するためには、セキュリティ対策を単なる「コスト」としてではなく、「事業継続のための戦略的投資」として位置づけ、経営言語に翻訳して伝える工夫が必要です。
例えば、「EDRを導入しないと、ランサムウェア攻撃を受けた場合、事業が最低1週間停止し、数百万円の損失と顧客信用の失墜に繋がる可能性があります」といったように、対策を怠った場合のリスクを具体的な事業影響や金額に換算して提示します。
「ブランド価値の維持」や「取引先からの信頼獲得によるビジネス機会の創出」といった、ポジティブな側面から投資効果をアピールすることも有効です。
客観的なデータや他社の事例を根拠に、論理的かつ情熱的にその必要性を訴えかけましょう。
まとめ:サプライチェーン全体の安全は、まず自社のリスク把握から
本記事では、サプライチェーン攻撃の脅威から、具体的な対策ロードマップ、インシデント対応、さらには経営層への説明方法までを網羅的に解説しました。
最後に、重要なポイントを振り返ります。
- サプライチェーン攻撃は他人事ではなく、中小企業こそが標的になりうる。
- 対策は場当たり的ではなく、「リスク管理」の体系的なアプローチが不可欠。
- 対策の第一歩は、自社と取引先のリスクを「見える化」すること。
- 契約、技術、組織体制の各方面から多層的な防御を築く必要がある。
- 攻撃は100%防げない前提で、事後の「インシデント対応計画」が重要。
サプライチェーン攻撃への対策は、一朝一夕に完了するものではありません。
しかし、漠然とした不安を抱え続けるのではなく、まずは自社がどのような企業と繋がり、どのようなリスクを抱えているのか、その棚卸しから始めてみてください。
その一歩が、自社とサプライチェーン全体を守るための確かな礎となるはずです。