GDPRとは?EU一般データ保護規則がビジネスに与える影響を徹底解説

GDPR(EU一般データ保護規則)。 近年、グローバルビジネスを展開する企業にとって、 無視できない存在となっています。 しかし、「名前は聞いたことはあるけれど、具体的に何をすればいいのかわからない」 「中小企業には関係ないのでは?」 そう思われている方も多いのではないでしょうか。 この記事では、GDPRの基本から、 日本企業が取るべき対応ステップ、 違反した場合のリスクまで、 わかりやすく徹底解説します。 GDPR対応は、単なる義務ではなく、 顧客からの信頼を獲得し、 競争優位性を確立するためのチャンスでもあります。 ぜひこの記事を参考に、 GDPR対応を着実に進めていきましょう。
GDPRの基本を理解する

GDPR(General Data Protection Regulation:EU一般データ保護規則)は、EUにおける個人データ保護のための重要な法律です。2016年5月24日に発効し、2018年5月25日から適用が開始されました。EU域内だけでなく、EU域外の企業にも影響を与える可能性があるため、グローバルビジネスを展開する企業はGDPRについて理解し、適切な対応を行う必要があります。
GDPR制定の背景と、企業が知っておくべき目的
GDPRは、個人情報(データ)の保護という基本的人権の確保を目的として制定されました。 デジタル化が進む現代社会において、個人データの収集、利用、共有が容易になった一方で、プライバシー侵害のリスクも高まっています。GDPRは、このような状況に対応し、個人が自身のデータをコントロールできるようにすることを目的としています。
企業がGDPRについて知っておくべき目的は、主に以下の3点です。
- 法令遵守: GDPRに違反した場合、高額な制裁金が科される可能性があります。企業はGDPRの要件を理解し、遵守することで、法的リスクを回避する必要があります。
- 顧客からの信頼獲得: GDPRに対応することで、顧客に対して個人データ保護への取り組みを示すことができます。これは、顧客からの信頼を獲得し、ビジネスの競争力を高める上で重要です。
- グローバルビジネスの円滑化: GDPRは、EU域外の企業にも適用される場合があります。GDPRに対応することで、EU市場におけるビジネスを円滑に進めることができます。
GDPRの適用範囲:EU域内・域外適用と個人データの定義をわかりやすく解説
GDPRの適用範囲は、EU域内に拠点を持つ企業に限定されません。EU域外の企業であっても、以下のいずれかに該当する場合はGDPRの適用対象となります。
- EU域内に設立された拠点を通じて、個人データの処理を行う場合
- EU域内に居住する個人に対して、商品やサービスを提供する場合
- EU域内に居住する個人の行動を監視する場合
つまり、EU域内に物理的な拠点がなくても、EU域内の顧客をターゲットにビジネスを展開している企業は、GDPRへの対応が必要となる可能性があります。
GDPRにおける「個人データ」とは、識別された、または識別可能な自然人に関するあらゆる情報を指します。具体的には、氏名、住所、メールアドレス、IPアドレス、Cookie情報などが含まれます。 また、人種、民族、政治的意見、宗教、遺伝情報、生体情報、健康に関する情報など、特に機微な個人データ(「特別なカテゴリーの個人データ」)は、より厳格な保護の対象となります。
個人データの定義は非常に広範であり、企業が取り扱う多くの情報が個人データに該当する可能性があります。そのため、企業は自社がどのような個人データを収集、利用、共有しているかを正確に把握し、GDPRの要件に従って適切に管理する必要があります。
EU域内企業からEU域外の第三国へ個人データを持ち出すことは原則禁止されていますが、所定の手続きを行うことでデータ移転が可能になります。
GDPRの主要要件とは?データ保護の原則とデータ主体の権利

GDPRは、企業が個人データを扱う上での様々な義務を定めています。ここでは、その中でも特に重要な「データ保護の原則」と「データ主体の権利」について解説します。これらの要件を理解し遵守することは、GDPRコンプライアンスの基礎となります。
GDPRが定めるデータ保護の7原則
GDPRは、個人データ保護に関する7つの基本原則を定めています。これらの原則は、個人データを処理するすべての組織が遵守しなければならないものであり、データ保護の根幹をなすものです。
データ主体に認められた権利一覧:アクセス権、訂正権、消去権など
GDPRは、個人データの主体(データ主体)に対して、自己のデータに関する様々な権利を認めています。これらの権利を行使することで、データ主体は自身の個人データをコントロールし、プライバシーを保護することができます。企業は、これらの権利を尊重し、データ主体からの要請に適切に対応する義務があります。
アクセス権・訂正権:個人データへのアクセスと修正を求める権利
データ主体は、自身に関する個人データがどのように利用されているかを知る権利を有します。企業は、データ主体からアクセス要求があった場合、速やかに対応し、保有する個人データを開示する必要があります。また、データ主体は、自身の個人データに誤りがある場合、訂正を求めることができます。企業は、この要求に基づき、速やかにデータを修正する義務があります。
消去権(忘れられる権利):個人データの消去を求める権利
消去権、いわゆる「忘れられる権利」は、データ主体が自身の個人データの消去を求めることができる権利です。例えば、データ主体がサービスの利用を停止した場合や、データ処理の目的が達成された場合などに、この権利を行使することができます。ただし、法的義務などにより、企業がデータを保持する必要がある場合は、消去要求に応じられない場合があります。
データポータビリティ権・処理制限権:データの移転と処理制限を求める権利
データポータビリティ権は、データ主体が自身の個人データを別のサービスプロバイダーに移転することを容易にするための権利です。企業は、データ主体からの要求に応じて、構造化された、一般的に利用される、機械可読な形式でデータを提供する必要があります。 処理制限権は、データ主体が自身の個人データの処理を一時的に制限することを求めることができる権利です。例えば、データの正確性に異議がある場合や、処理の適法性に疑義がある場合などに、この権利を行使することができます。
同意取得の重要性と、GDPRが定める6つの法的根拠
GDPRにおいて、個人データの処理は、原則としてデータ主体の同意に基づいて行われる必要があります。しかし、GDPRは、同意以外にも、個人データ処理の法的根拠として、以下の6つを認めています。
企業は、個人データを処理する際には、これらの法的根拠のいずれかに基づいている必要があります。特に、同意に基づいて個人データを処理する場合には、GDPRが定める厳格な要件(自由意思に基づく、特定された、明確な、情報に基づいた同意)を満たす必要があります。
DPO(データ保護担当者)とDPIA(影響評価)の要件:企業が果たすべき義務
GDPRは、特定の条件を満たす企業に対して、データ保護担当者(DPO)の任命と、データ保護影響評価(DPIA)の実施を義務付けています。
- DPO(データ保護担当者):個人データの処理に関する専門知識を持ち、GDPRの遵守状況を監視し、助言を行う役割を担います。DPOの任命が義務付けられるのは、大規模な個人データの処理を行う企業や、特別な種類の個人データ(病歴、人種、宗教など)を大規模に処理する企業などです。
- DPIA(データ保護影響評価):新しい技術や大規模なデータ処理を行う際に、個人データの保護に与える影響を事前に評価するプロセスです。DPIAを実施することで、潜在的なリスクを特定し、適切な対策を講じることができます。
これらの要件を遵守することは、企業がGDPRコンプライアンスを維持し、データ主体の権利を保護するために不可欠です。
GDPR違反のリスク:罰則と違反事例から学ぶ教訓

GDPR違反による罰金上限:2,000万ユーロまたは世界売上高の4%とは
GDPRに違反した場合、非常に高額な罰金が科される可能性があります。GDPR第83条では、違反の種類に応じて、以下のいずれか高い方の金額が制裁金の上限として定められています。
- 2,000万ユーロ(約26億円)
- 全世界年間売上高の4%
この金額は、企業の規模によっては経営を揺るがすほどのインパクトを持つため、GDPR対応の重要性が高まっています。特に、意図的な違反や、データ保護の原則を無視した重大な過失が認められた場合には、高額な制裁金が科される可能性が高まります。
GDPRの制裁金は、単なるペナルティとしてだけでなく、企業がデータ保護の重要性を認識し、適切な対策を講じることを促すための抑止力としての役割も担っています。
主要な制裁事例から学ぶ、GDPR違反のポイントと対策
GDPRが施行されて以降、実際に多くの企業が制裁金を受けています。これらの事例から、GDPR違反のポイントと対策を学ぶことは、自社のGDPR対応を強化する上で非常に重要です。
以下に、主要な制裁事例と、そこから得られる教訓をまとめました。
これらの事例から、以下のポイントがGDPR違反のリスクを高めることがわかります。
- 個人データの処理に関する透明性の欠如:どのようなデータを、どのような目的で利用しているのかを明確に説明していない。
- 同意取得の不備:個人データの利用について、十分な情報を提供せずに同意を得ている、または同意を得ていない。
- 不十分なセキュリティ対策:個人データへの不正アクセスや漏洩を防ぐためのセキュリティ対策が不十分。
- データ保護に関する意識の低さ:従業員のデータ保護に関する知識や意識が低い。
これらのポイントを踏まえ、以下の対策を講じることで、GDPR違反のリスクを低減することができます。
- 個人データの処理に関する情報を明確化し、プライバシーポリシーをわかりやすく記述する。
- 個人データの利用目的を明確にし、利用目的ごとに適切な同意を得る。
- セキュリティ対策を強化し、個人データへの不正アクセスや漏洩を防止する。
- 従業員に対するデータ保護に関する研修を実施し、意識を高める。
- DPO(データ保護担当者)を任命し、GDPR遵守体制を構築する。
GDPR違反は、高額な制裁金だけでなく、企業ブランドの毀損や顧客からの信頼失墜にもつながる可能性があります。事例から学び、適切な対策を講じることで、リスクを最小限に抑え、ビジネスの継続性を確保することが重要です。
日本企業が取るべきGDPR対応ステップ

GDPRへの対応は、グローバルビジネスを展開する日本企業にとって避けて通れない道です。ここでは、具体的な対応ステップを解説します。
データマッピングとガバナンス構築:現状把握と体制構築の重要性
GDPR対応の第一歩は、自社がどのような個人データを、どこから取得し、どのように利用し、どこへ移転しているのかを詳細に把握することです。これを「データマッピング」と呼びます。データマッピングを通じて、自社のデータフローを可視化し、GDPRの要件に合致しているかどうかを評価します。
データマッピングと並行して、GDPRに対応するための社内体制、つまり「ガバナンス体制」を構築することが重要です。具体的には、以下の項目を検討する必要があります。
- 責任者の明確化:GDPR対応の責任者を任命し、権限と責任を明確にします。
- 社内規程の整備:個人データの取り扱いに関する社内規程を策定し、従業員への周知徹底を図ります。
- 教育・研修の実施:従業員に対して、GDPRの基本原則やデータ保護に関する教育・研修を実施します。
- 監査体制の構築:定期的な内部監査を実施し、GDPR遵守状況を評価・改善します。
データマッピングとガバナンス構築は、GDPR対応の基盤となる重要なステップです。現状を正確に把握し、適切な体制を構築することで、その後の対応を円滑に進めることができます。
越境データ移転:SCC(標準契約条項)とBCR(拘束的企業準則)の選択肢
GDPRでは、EU域外への個人データの移転について、厳しい規制を設けています。日本企業がEU域内から個人データを移転する場合、以下のいずれかの方法で、十分なデータ保護措置を講じる必要があります。
- 十分性認定:EU委員会が、移転先の国または地域におけるデータ保護法制がEUと同等の水準にあると認定すること。
- SCC(標準契約条項):EU委員会が承認した標準的な契約条項を、データ輸出者(EU域内の企業)とデータ輸入者(日本企業)との間で締結すること。
- BCR(拘束的企業準則):多国籍企業グループが、グループ全体で遵守するデータ保護ルールを策定し、EUのデータ保護当局の承認を得ること。,
中小企業や、データ移転の規模が比較的小さい企業には、SCCが一般的な選択肢となります。一方、大規模な多国籍企業グループには、BCRが適している場合があります。自社の状況に合わせて、適切な方法を選択しましょう。
なお、SCCは2021年に改定されており、企業は改定版のSCC(新SCC)への切り替え対応が求められています。 新SCCでは、データ移転の状況に応じて、複数のモジュールを選択する必要があるなど、以前のSCCよりも複雑になっています。専門家のアドバイスを受けながら、適切に対応を進めることが重要です。,
ePrivacy規則の動向とクッキー対応:今後の規制強化に備える
ePrivacy規則は、EUにおける電子通信のプライバシーを保護するための規則です。当初はGDPRと同時に施行される予定でしたが、現在も議論が続いており、施行時期は未定です。しかし、ePrivacy規則は、クッキーやダイレクトマーケティングなど、オンラインビジネスに大きな影響を与える可能性があるため、その動向を注視しておく必要があります。
特に、クッキーに関する規制は、ePrivacy規則の重要な要素の一つです。ePrivacy規則では、原則として、クッキーの使用にはユーザーの同意が必要となります。そのため、Webサイトを運営する企業は、ユーザーに対してクッキーの使用目的を明確に説明し、同意を得るための仕組みを構築する必要があります。
ePrivacy規則の施行時期は未定ですが、EUでは、クッキー規制に関する enforcement が強化される傾向にあります。そのため、日本企業も、EU域内のユーザーに対してWebサイトを提供する際には、クッキーポリシーを明確に提示し、適切な同意管理を行うことが重要です。
今後の規制強化に備え、ePrivacy規則の動向を常に把握し、クッキーポリシーの見直しや同意管理ツールの導入などを検討していくことが望ましいでしょう。
まとめ:GDPR対応で顧客信頼を築き、競争優位性を確立する
GDPR(EU一般データ保護規則)は、EU域内だけでなく、域外の企業にも適用される可能性のある重要な法律です。本記事では、GDPRの基本原則から具体的な対応策、違反リスクまでを網羅的に解説しました。GDPRへの適切な対応は、単なる法規制遵守にとどまらず、顧客からの信頼獲得、ひいては競争優位性の確立につながります。
GDPR対応は、データマッピングによる現状把握、データ保護体制の構築、越境データ移転への対応、そして今後のePrivacy規則の動向を見据えたクッキーポリシーの見直しなど、多岐にわたります。これらの対応を適切に行うことで、企業はグローバルなビジネス環境において、より強固な地位を築くことができるでしょう。